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タイトル: 列車走行に起因する地盤振動の粘弾性波動論に基づく数値シミュレーションに関する研究
著者: 加藤, 政史  KAKEN_name
著者名の別形: Kato, Masafumi
キーワード: 地盤振動
粘弾性波動論
差分法
有限要素法
DEFGM
発行日: 24-Mar-2008
出版者: 京都大学 (Kyoto University)
抄録: 近年計算機技術が急速に進歩したため, あらゆる技術的分野において, 数値計算は不可欠なものとなりつつある. 新しい技術は, 理論的予測と実験的検証を経て実用化される. 数値計算は, この理論的予測のための道具というばかりでなく, 実験的検証の代替手段になる場合もある. 差分法(FDM: Finite Difference Method) と有限要素法(FEM: Finite Element Method) がそれぞれプログラミングの容易さと汎用性から, 最も利用されている数値計算手法であるのは明らかである. 本研究は, 粘弾性波動論においてFDM とFEM を中心とした数値解の高精度化と, 列車走行に起因する地盤振動現象の再現, さらには当分野での工学的応用を目指したものである. 一般に地盤振動は, 環境問題と成り得る一方で, 列車の高速化も望まれている. ゆえに, 将来のさらなる高速化のために. 定量的にこの現象について再現することができる方法論を発見することが重要である.まず, 粘弾性波動方程式を導出する. ここでの導出方法は後の数値計算スキームへの展開を念頭に置き, 変数の定義等が過去の文献よりも簡潔に整理されている.粘弾性波動方程式のスキームへの展開は, 弾性波動方程式から容易に導くことができる. ゆえに, 弾性波動方程式を, FDM とFEM による2 次元の数値計算スキームを詳述する. 本論文では, FEM については, エレメントフリーガラーキン法の移動最小二乗法から求める内挿関数を用い, さらに剛性マトリクスを構成せずに各タイムステップごとに応力を評価する計算スキームであるDEFGM(Decomposed Element FreeGalerkin Method) を提案する. そしてこの手法とFDM4(Finite Difference Method with4th order accuracy in space) との比較を中心に議論を進める. DEFGM を考案した理由は, 空間内挿の次数を必要以上に上げることなく精度を向上させるためである.PS 反射波による比較検討では, FDM4 の精度がDEFGM のものより少し良かった.この理由は, DEFGMの空間精度が3 次であるのに対し, FDM4 の空間精度が4 次だった点にあると考えられる. 一方, 最短波長に対して8 グリッドの条件で行ったレイリー波の合成テストにおいては, グリッド分散なしに正しいレイリー波が合成できるのは, FDM4 では5 波長(Ricker wavelet の中心周波数に対する) であったのに対し, DEFGM では50 波長以上を伝播した. この理由としては, FDM4 が自由表面の近くが空間精度2 次であったためと考えられる. このように, 計算精度を計算時間との両面から評価した結果, 自由表面を含まないモデルではFDM4 が, 一方, 自由表面を含むモデルではDEFGM が効果的なシミュレーション手法であるということがわかった.また, DEFGM において, 基底ベクトルと重み関数を変化させながら比較検討を行った. 過去の研究に示された基底ベクトルと重み関数の組み合わせは, 我々の問題においては期待されるほどの精度は得られなかった. しかし, 本研究において著者が提案した新たな基底ベクトルと重み関数の組み合わせはEFGM の精度を劇的に向上させた. さらには, 通常のFEM を上回る精度を与える組み合わせを見いだすことができた. また, 以上の成果は, 空間内挿の次数を必要以上に上げることなく実用上十分な計算精度を得たという点で画期的といえる.次に, 上記において提案した手法を新幹線の走行に起因する地盤振動に適用し, 実世界での波動現象の再現を試みた. この際, 新幹線の車両の挙動分析や安全点検のために計測される走行中の車輪に掛かる力を直接シミュレーションにおける入力として利用した. この利点は, 入力が既知であるため, 波動場を再構成する際, 伝達系の波動論の妥当性に絞った議論ができることである. まずフィールドサイトの速度検層記録と, 周辺地域での盛土の物性値を文献等から整理した. そしてそのサイトで列車から到来する地盤振動の時系列, 振幅スペクトル, FK スペクトルを観測した. このようにして得られた入力と地盤のパラメータを入力し, FDM シミュレーションを行った. 値が確定していないパラメータである粘性Q 値を5, 6, 7.5, 15, 25, 50 の6 通りで別々に計算を行った. シミュレーション結果の振幅スペクトルを現場記録と比較したところ, Q ≦ 7.5 の設定において, シミュレーション結果は, フィールドで記録された波動の時系列と非常に良い一致を示した. このQ 値の範囲は, 過去の文献等から妥当であると判断できる. また, シミュレーション結果をFK スペクトル解析することで, 現場記録にドップラー効果が含まれることが明らかになった. 列車が盛土という連続的な構造の上を走行していることと, 新幹線という極めて重量バランスに優れた列車を対象としているという2 つの理由から, あらゆる車軸からの応答は同じであるということと, 場所によっていくらか列車の重量から大小する変化分のみが地面振動を引き起こすという2 つの仮定を設けた. これらは, 計測方法の限界等を補うという意味もある. シミュレーション結果は, 地面振動現象を十分説明しているといえ, これらの仮定は肯定される.最後に, 3 次元DEFGM とFEM を用いて複雑な構造問題を評価した. まず, 3 次元FEM の精度を弾性体半無限空間の解析解, 弾性体2 層無限空間の準解析解, 粘弾性体2 層無限空間の準解析解の3 つのモデルおよび別解との比較により評価を行った. このように精度評価を3 通りに分けた理由は, 解析解も準解析解も数値積分等を含む近似解法であるからだ. シミュレーションの結果, 弾性半無限空間の解析解と極めて良い一致を見せ, 他の準解析解とはわずかな誤差があった. 明らかに解析解は, 準解析解よりも厳密解に近いため, 粘性を含めたFEM の精度は極めて良いと結論付けることができる. さらに, 並列計算によってプロセッサ台数以上の高速化が望めることもわかった.以上のような精度評価をもとに, 高架橋連結部に取り付けた補強鋼が地盤振動に与える影響の評価を行った. これには, 梁理論と3 次元DEFGM の結合理論を導入した, また, 鋼矢板による地中防振壁の評価を行った. これらの計算結果は, 過去の実験的研究の成果を理論的に説明できる結果といえる.本論文全体を通して留意した点は, 利用する数値計算手法の精度や特徴を十分に確認した上で, 地盤振動現象を解明した点である. 特に計算精度は, 解析解との比較だけでなく, 列車走行による振動問題のように線路長を有限に打ち切ることの妥当性や, DEFGM と梁理論の結合モデルを全DEFGM モデルとの比較によって示せた点は重要といえる. このように数値計算手法に対して, 十分な精度評価を行ったため, 列車走行に起因する地盤振動をある程度の範囲で解明できたといえる.今回の研究によって, FDM とFEM は均質な問題を解く限り, 精度は互角であることがわかった. 従って, これらは用途によって使い分けるのが良い. FDM は, 現象の基本的メカニズムの解明する際に適切である. なぜなら, プログラミングが簡潔で計算量が少ないためである. 一方, 複雑な構造問題に対して扱いが容易なFEM は, 高架橋や防振工事といった人工構造物が存在する場合の動的問題を評価する際に適切である.波動現象の分野に限らず, さまざまな技術的分野において数値計算が非常に有効なツールであることは確かである. しかしながら, 工学的な応用を考えた時に, 数値計算が信用に足る値を提供しているかどうかには, 本論文で示したような精緻な議論が必要であることを強調したい. 本論文に示したいくつかの応用例においても, 今後より詳細な考察と考慮が望まれるメカニズムの存在が考えられる. 例えば, 地盤の圧縮性やコンクリートと地盤の間のすべり, 異方性等の問題である. 今後は, 動的問題においても, このような本研究では無視されていたメカニズムの導入や, さらにはFDM やFEM の枠組みを超えた新規手法の提案を目指したい.
学位授与大学: 京都大学
学位の種類: 新制・課程博士
取得分野: 博士(工学)
報告番号: 甲第13796号
学位記番号: 工博第2900号
学位授与年月日: 2008-03-24
請求記号: 新制||工||1428(附属図書館)
整理番号: 26012
研究科・専攻: 京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻
論文調査委員: (主査)教授 松岡 俊文, 教授 田村 武, 教授 朝倉 俊弘
学位授与の要件: 学位規則第4条第1項該当
DOI: 10.14989/doctor.k13796
URI: http://hdl.handle.net/2433/57251
出現コレクション:090 博士(工学)

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